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昼間から 生まれたての夜露が肌に触れるまでの間、 森の中を足が棒になるほど歩いた もう一歩も動けない ![]() 日が暮れると 私たちの代わりに樹々が歩き出し 音も立てずに踊りはじめた その揺れるスカートが夜を呼んでくる 地面に藍色が染み込んでゆく さっきまでいた鳥も虫も誰も彼もが闇に溶けてもう見えない あの泉だけ ずっと光ってる ![]() ![]() これ お世話 よろしく、 と言い残して Gは我が家にメダカをあずけて旅に出た。 いいよ、とか、分かったよ、とか言う前にあずかることになっていて、 私は、お土産はいらないよ、とだけ言った。 私は、生きものを飼ったことがない。 同じ空間に守るべき命があると思うと責任を感じて、緊張する。 その存在感が大きすぎて 圧倒されるのだ。 もし、 留守の間に水槽の水が温まりすぎて、メダカが茹であがっていたらどうしよう 私が寝ているあいだにメダカが飛び跳ねて、床に落ちて死んでしまったらどうしよう 水槽を綺麗にするためにいる貝に食べられていたらどうしよう こんな風に考えるなんて、 わたしは、メダカを信用していないということなのだろうか そうだとしたら、なんて酷い女だろう そもそも、守るべき命なんて考え方は、傲慢なんだろうか .... メダカが来て初めての朝、 窓辺の光に煌めく水槽で泳ぐ 無心の目玉をみていたら 愛しくてたまらなくなった。 なんだろう、このかんじ。 そうだ、これは、恋に似ている。 恋と限りなく近い場所から生まれる、でも決定的に違うきもち。 たとえば、 恋人の、寝息と一緒に上下する胸の動きをぼんやり眺めているような時間に似ている。 ともかく、 Gが帰ってくるまで この小さな命を守るのだ。 それまでの日々をとても 嬉しくおもう。 ![]() つたえようとしたら くちから でてきた これ、 そう これ、 とても正確な つたえたいこと てにとって よく みて ![]() 今日は、桜鼠の色した雨が降っています。 街が 薄い桜色に煙っています。 冬の気配を土に還して 春がやってくる、これは合図の雨。 いのちが絶えることと続くことは同じ線の上に。 今年も約束は、守られました。 この雨を一番はじめに わかちあいたい人、 その在り様は どうしたって芽吹く花の蕾みに似て 春が来るのとおなじくらい うれしいことだと思いました。 また 春がめぐってきました。 ![]() 100階はある石段の中腹に大きな図太袋が置いてある、 と思い近づいてみると 女だった。 女が、さかさまでうずくまっている。 気絶しているのか死んでいるのか、覗き込んでみると 良い夢を見てる最中のような顔をして、すーすー寝ている。 このまま、この女の寝顔を見ていたいとも感じたが、 石段の下に落ちては危ないので起こそうと思う。 しかし、 女と真逆をむいている私が起こしたとしたら、 起きた拍子にびっくりして下に転げ落ちるともかぎらない。 ここは慎重にやらねばならぬ。 どうしたものかと考えて、 私も石段にさかさまになり 一緒の方向にむかって立ち上がれば良いと思いついた。 果して さかさまになり 女の肩に手をかけて 立ち上がってみれば 世界は さかさまのまま。 もとへのもどりかたが分からず 階段を下りているつもりが 上っている。 下れば下れるほど てっぺんが近づく。 女は肩にもたれて くーくー寝息をたてている。 ![]() いちばん悲しい結末で染めた服を わざわざ仕立てて 何度も袖を通します ひとりでワルツを踊って 袖口からすこしづつ 涙を逃がしているのです ほんとうのことに 会いにいくまえに くるくるくるくる踊っています ![]() 山の向こうで 燃えているのは 誰の命だろう つぎつぎと空に昇っていく つぎつぎと生まれてくる この様子に涙が出るのはなぜだろう 「John Cage_Summer」 ![]() じぶんの沼を じっとみていたら みたことのない鳥が生まれて 勢いよく飛んでった 見えなくなるまで飛んでって あっという間に戻ってきて 顔の周りを 跳ねるように飛んでいる 好奇心が目に見えたら きっとこんな生き物だろうな 動かぬ山になりかけていたM子は 自分のなかにまだ こんなものが残っていたのかと思った うれしかった 今ならまだ動けるかもしれない ゆっくりと視線をを上にむけると なつかしい眩しさが目を刺した ![]() 前を通る度に、みとれていた湖に とうとう入ってしまった 「とうとう」と、いうわけは 前からずっと入ってみたかったこと、 しかし入水禁止区域なこと、 そのうえ、自分が泳げないからだ さらに、今日に限って湖が「おいで」と言うのだ みなもを指でなぞってみると 思ったよりずっとやわらかだったので 泳げる気がしてきた 服のまま 湖に潜りこんでみる みずのなかは、 ほのかにあたたかく とろりと体にまとわりつく 本当はもっともっと 奥まで潜りたかったが やめた 湖のなかが心地よすぎて 二度と戻れなくなりそうな気がしたので 必死にやめた みずからあがったあと、 今の出来事を 手のひらにのる程の箱にしまって、 とっておきのリボンをかけた 湖に入りたくなったら リボンを解いて 何度でも また 記憶の湖に潜る
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